物語 物語

現代――。土地の整備事業が進むのどかな田園地帯に、凛と佇む7本の古い古い桐の木。伐採の許可をとるべく、役所の職員2人が向かったのは美しい老人ホーム。彼らを待っていた1人の老女・サユリは、時折朦朧とする意識の中、静かに力強くつぶやく。
「あの木を切ってはならん…。あれは…おかあさんの木じゃ…」
そして彼女は、ある悲しい物語を語り始めた――。

今から100年ほど前…長野県の小さな田舎村。若く美しいミツは、かねてから一途な想いを寄せていた謙次郎とめでたく祝言を挙げた。謙次郎の親友・昌平をはじめ、村中から祝福された結婚生活。ミツは一郎、二郎、三郎、四郎、五郎…と次々に元気な男の子を生み、決して裕福とはいえない暮らしぶりではあったが幸福だった。六人目の男の子・誠だけは、子宝に恵まれなかった姉夫婦に懇願され密かに里子に出したものの、さらに末っ子の六郎まで生まれ、家の中はいつも賑やか。優しい夫とヤンチャな息子たちに囲まれて、ミツはいつも笑顔で忙しい毎日を過ごしていた。しかしその笑顔が消える出来事が起きてしまう。謙次郎が心臓発作で、急逝したのだ。愛する人のあまりに突然の死に、呆然とするしかないミツ。そんな彼女を支えたのは、6人の息子たちだった。ミツは健気な子供たちの支えによって、少しずつ立ち直っていく。

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それから数年後。すっかりたくましい青年に成長した息子たちを、今度は“戦争”がミツから奪う。まずは一郎、そして二郎…。「お国のため」という名目で華々しく出征してゆく息子たちを複雑な思いで送り出すミツは、彼らが戦地に赴く度に1本ずつ桐の木を庭に植えてゆく。
「一郎、二郎、元気でいるかい?今どこにいる?きっと生きてるだろうない?」
まるで木に息子1人1人の魂が宿っているかのように、優しく語りかけながら…。

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そんな彼女をいつも気遣い心配しているのは、昌平とその娘・サユリだった。だが昌平は郵便局員という仕事柄、ミツに息子たちの戦死の報せを告げるという辛い役回りをも担当することになる。
ある日、ついに五郎にまで出征の命令が下る。既に3人の息子を亡くしていたミツは、これまでの感情が爆発。汽車で戦地に旅立つ五郎の足元にすがりつくという「非国民」的な行動に出てしまい、憲兵に蹴り上げられ尋問を受けることに。だが周囲の助けで、なんとか無事に帰宅することができたのだった。

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長い長い戦争が終わっても、7人の息子たちは誰一人戦地から帰ってこなかった。それでもミツは7本の桐の木を大事に育てながら、いつか誰かは戻って来ると信じて待ち続けた。いつまでもいつまでも…。
「どんな事をしても、おめぇらを戦争に行かせるんじゃなかった。母ちゃんが悪かった。許しておくれ、みんな帰ってきておくれ」

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終戦翌年の冬――。唯一、生死が確認できなかった五郎が、傷だらけの姿で戻って来る。
夢にまで見た懐かしい我が家、そして愛しい母を想い傷付いた足を引きずり思わず駆け出す五郎。
「おかあさん!五郎は今、生きて帰ってきました!」
やっとの思いで辿り着いた五郎が見たものは・・・。

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すべてを語り終えた老いたサユリは、疲れたように瞳を閉じる。そしてうわごとのように、再びあの言葉を繰り返す――
「あの木を切ってはいかん…あれは、おかあさんの木じゃ…」

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